« 2007年2月 | トップページ | 2007年4月 »

2007年3月18日 (日)

漆黒の瞳の行く先は 【17】

どんな時でも可愛かったあたしの弟。
「お姉ちゃん」とあたしの服の袖を引っ張りながらずっと後をついてきて。
浮かべた笑顔は消えなくて。
そんな弟が愛しくて愛しくてたまらなかった。


それなのに。
いつからかな。


あなたの瞳があたしを見るときの視線が変わったのは。
―――――それでも、あたしは、いつだって。



「陸、離して」
「やだ。何で」
「…ご飯、食べるから」
「何だよそれ」

そう言ってちょっとだけ笑った陸は、あたしの肩に自分の額を乗せると溜息をついた。
あたしの腕を掴んだまま、一向に離してくれる気配は無い。
寄せ合った体が、熱くて熱くて。
もうやだ。離して。これ以上あたしを混乱させないで。

「ねぇ、陸。離してって言っ…」
「ちょっと黙って。聞いて」

あたしの言葉を遮った陸は、ゆっくりと顔を上げた。
火照った頬。苦笑いのように弱々しく笑う表情。
そのどれもが、あたしを釘付けにさせて。


「少しだけで、いいから」


そんな顔しないで。
そんな目であたしを見ないで。
どうしようもなくなる。どうすればいいのか分からなくなる。

「―――…っ」

握られた腕から伝わってくる。
目、そらさないで、って。ちゃんと見て、って。

「…ずるいよ…!」

もう何も言えなくなった。
溢れてくるのは涙だけで。陸の顔がゆがんで見えた。


――ああ。
陸の目を見つめるだけで。

たまらなく切なくなってしまう、あたしは、きっと。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2007年3月 1日 (木)

漆黒の瞳の行く先は 【16】

目の前にあるのは、小麦色の肌と、閉じた瞳から伸びる長いまつげ。
呪ってやりたいほど整った顔立ちをしてる義理の弟。

「陸。ご飯。起きろ」

体をゆすっても叩いても彼は一向に目を開けてはくれない。
ちょっとだけ表情をゆがめたかと思うとすぐにまた元に戻る。
これじゃ埒があかない。

「…起きろっつってんのに…」

起こしてって言ったのはそっちだろ。
恨みがましく陸を睨んでみたけど、そんなのは何の力にもならなくて。
何だかどうでも良くなったあたしは、先に一人で食べることにした。
まぁ合宿終わってすぐだし疲れてるんだろう。

「…あたし、先に食べとくからね?」

それだけ告げ、一階に戻ろうと思い、立ち上がったところで。

「…は?」

あたしの腕は、寝てるはずの弟に掴まれた。
閉じてた瞳はしっかりと開いていて。腕に込めてある力は半端なくて。
あたしは動けなくなった。
何か言おうとしても言葉がのどの奥でつっかえている。
…何?起きてんの?寝ぼけてんの?どっち?
やっとのことで出たものは、しぼり出したような情けない声。

「…何?起きるんならさっさと起きてよ」

声が、かすれて。陸を見つめ返す。

「…姉貴」

どこか切ない声だった。
ぐいっと腕を引っ張られて、何の心構えもしていなかったあたしの体は簡単に倒れこむ。
「何すんの」と声を荒げて強く睨みつけたあたしに、陸は何でもない事のようにさらりと言った。


「キスして」

一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
互いを見つめる瞳がかすかに揺らめく。潤む。

「…何、それ」

弟相手に。
陸相手に本気で動揺してるあたしは馬鹿ですか。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

« 2007年2月 | トップページ | 2007年4月 »